ホメオパシーと睡眠障害(2)
さて、ようやく本題に入る。
ホメオパシー国際評議会(ICH)秘書官のスティーヴン・ゴードン氏から 不眠治療研究で、ホメオパシーが有益であるという結果の研究論文に つき、JPHMAに報告がありました。同論文は米国の Elsevier(エルゼビア)社発行 「Sleep Medicine」というジャーナル に 受理され、論文公開されています。抄録部分から紹介させて頂きます
とした論文である。この論文は
Sleep Med. 2011 May;12(5):505-11. Epub 2010 Jul 29.
Effects of homeopathic medicines on polysomnographic sleep of young adults with histories of coffee-related insomnia.
Bell IR, Howerter A, Jackson N, Aickin M, Baldwin CM, Bootzin RR.
Department of Family and Community Medicine, The University of Arizona College of Medicine
である。商業誌であり、要旨しか入手できないが、今回は全文を入手出来たので合わせて考察する。
題名は「コーヒーに関連する不眠歴を持つ若年成人のポリソムノグラフィー(以下PSGと略)におけるホメオパシー薬の効果」である。早速一つ出てくる疑問がある。実験対象は「コーヒーに関連する不眠歴を持つ若年成人」である。彼らはそもそも睡眠障害患者なのか? 不眠症の定義については日本睡眠学会の定義が参考になる。
A.不眠症の定義:
夜間中々入眠出来ず寝つくのに普段より2時間以上かかる入眠障害、一旦寝ついても夜中に目が醒め易く2回以上目が醒める中間覚醒、朝起きたときにぐっすり眠った感じの得られない熟眠障害、朝普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまう早朝覚醒などの訴えのどれかがあること。 そしてこの様な不眠の訴えがしばしば見られ(週2回以上)、かつ少なくとも1ヵ月間は持続すること。不眠のため自らが苦痛を感じるか、社会生活または職業的機能が妨げられること。などの全てを満たすことが必要です。
貧困は、肥満に寄与する
なお精神的なストレスや身体的苦痛のため一時的に夜間良く眠れない状態は、生理学的反応としての不眠ではありますが不眠症とは言いません。
要するに「不眠の訴えが週2回以上見られ、かつ1ヶ月以上持続し、社会生活および仕事に何らかの支障が出ていること」が睡眠障害としての不眠症の定義である。「コーヒーに関連する不眠歴を持つ若年成人」は不眠症の定義に当てはまるのか? 睡眠障害でない人が相当数含まれているのではないか? この点については十分な検証が必要である。
早速対象者について見ることにしよう。要旨では
Young adults of both sexes (ages 18–31) with above-average scores on standardized personality scales for either cynical hostility or anxiety sensitivity (but not both) and a history of coffee-induced insomnia
(標準人格基準で、Cynical Hostility(皮肉な敵意)もしくはAnxiety Sensitivity(不安感受性)のどちらかで 平均値以上を示した人、および、コーヒーによる不眠歴を持つ者[日本ホメオパシー医学協会訳])
協会の訳はほぼ問題ない。研究対象は
・性格検査で「皮肉な敵意」もしくは「不安感受性」のどちらかが平均値以上
・コーヒーによる不眠歴を持つ
なのであるが、これが本当に睡眠障害なのか? 睡眠障害の定義には性格や人格の変容は含まれていない。確かに睡眠が満足に取れなければイライラして攻撃的になったり、不安に対する感受性が上がることはあるかも知れない。しかし「平均値以上」ということは「平均に近いが平均よりは上」という人も含まれている可能性がある。そのような人に対して「不眠によって人格の変容をきたしている」というのはいかがだろうか。
論文本文を見てみよう。
2. Methods
2.1. Subjects
リリース減量GNC
Potential subjects were identified by screening young adult male and female college students (age range 18–31) enrolled in the introductory psychology class at the University of Arizona, for scores on the 16-item anxiety sensitivity index (ASI) [29], the 27-item Cook–Medley Cynical Hostility Scale (CMHO) [30], and one 5-point rating item on self-rated physical health [31]. All potential subjects had to score P3 out of 5 on a rating of global health and give a history of coffee-induced insomnia in the past.
The anxiety sensitivity and hostility classifications were used to select the study participants, such that individuals were chosen to be high hostile (above CMHO mean, below ASI mean) or high anxiety sensitive (below CMHO mean, above ASI mean). Above- and belowmean cutoffs for inclusion in the high anxiety sensitivity subgroup
were P16.8 for males and P19.1 for females on the ASI and <11.0 on the CMHO; for the high hostility subgroup <16.8 for males and <19.1 for females on the ASI andP11.0 on the CMHO. These cutoffs were determined by the study statistician using the mean scores computed from the first 1036 people screened for the study and are comparable to means published with similarly aged samples [32–35]. Subjects were dynamically assigned [36] to one of the two remedies, Nux Vomica or Coffea Cruda, using their CMHO and ASI scores, age, and sex as balancing factors.
とある。詳しく書かれているが、要旨の内容と食い違うものではない。一つ付け加えるなら、対象は「心理学入門」講義を受講した大学生であるという点。18歳から31歳とあるが、確率的には20歳前後の人がかなり多いだろう。このことが結果に影響を及ぼす可能性があるので、頭に入れておこう。しかしながら、やはり「この研究対象の中には睡眠障害患者ではない人が相当数含まれている」という疑念は拭えない。
次の疑問は、不眠症による人格や性格の変容にはさまざまなものが考えられるが、なぜ Cynical Hostility(皮肉な敵意)もしくはAnxiety Sensitivity(不安感受性)が選ばれたのだろうか。当然論文には記載があるはずである。そこでintroductionを詳しく見てみると、
産後うつ病のエッセイ
The primary purpose of the present within-subjects feasibility study was to examine the PSG effects of one dose of placebo versus either Coffea Cruda 30c or Nux Vomica 30c in relatively healthy young adult human subjects with a past history of coffee-induced insomnia. Because of the importance of person-centered factors in clinical expectations of remedy effects [27,28], inclusion criteria included individual difference traits of increased levels of either anxiety sensitivity or of Type A cynical hostility. Based on the animal studies, the remedy effects were hypothesized to include changes in both quantity and quality (variability in sleep stage changes and in awakenings after sleep onset) of NREM sleep, especially slow wave sleep, after controlling for within-subject baseline sleep patterns and placebo effects.
という一節を見つけた。おいおい青字のところでは「比較的健康な若年成人」と書いてあるじゃないか…。しかも衝撃的なのは、赤字の一文、
Because of the importance of person-centered factors in clinical expectations of remedy effects [27,28], inclusion criteria included individual difference traits of increased levels of either anxiety sensitivity or of Type A cynical hostility.
(レメディの効果が臨床的に期待できる人的要素として重要であるため、A型のCynical Hostility(皮肉な敵意)もしくはAnxiety Sensitivity(不安感受性)のレベルの上昇というさまざまな性格特性が対象患者の選定基準に含まれたのである。)
つまり、 Cynical Hostility(皮肉な敵意)もしくはAnxiety Sensitivity(不安感受性)が選ばれた理由は、睡眠障害に関係があるのではなく、"clinical expectations of remedy effects" つまり「レメディが効きやすいと思われる人」をスクリーニングするためだと言っているのである。つまりこの試験の対象者となったのは、一般の睡眠障害患者ではなく、レメディが効きやすいと思われる選ばれた人なのだ。
確かに薬の効果を見る上で薬に対する感受性をみることは重要であるが、それは一般的な患者像からは大きく外れた、かなり限定的な集団の中で試験をすることになる。現にこの論文では、
A total of 4279 people were screened for the study. Seventy people met all eligibility criteria, volunteered and enrolled in the study.
となっており、なんと4279人の中のたった70人しか試験に参加していない。これは実験に参加した人たちはかなり特殊な集団であることを示しており、現実の臨床の状況からは大きくかけ離れていると言わざるを得ない。その結果を書くときには当然そのことに言及しなければならない。ところがホメオパシー団体のアナウンスにはそのことは全く触れられていない。これを見た多くの睡眠障害患者は、「レメディーは多くの睡眠障害に効果がある」と誤解しても仕方がない。
我々医師は、患者に対してあらゆる治療の可能性、メリット、デメリットを正確に理解してもらうために多大な努力を払っている。それをしなければ訴えられる事だってある。それに対して彼らの説明に対する態度は余りにも不誠実である。福島に行って大地にレメディーを蒔いている場合じゃない。先にすることがあるだろう。
この論文、実は方法論や統計処理にもさまざまな問題が指摘できるのであるが、ここまできて完全にやる気が失せてしまった。気が向いたら続きを書くことにする。
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